門柱を作る
投稿者:ゲストハウス・叢林亭:http://www.sorintei.com
人はものを作るにあたり設計をする。家などの建造物、車などの工業製品はもちろん簡単な小物でも、ちょっと手の込んだものや精度を要するものは設計図を起こし、細部まで検討してから制作にとりかかる。
設計図を描くときはあらかじめ完成時の姿が出来ている。あるべき全体の姿のイメージが描く人の意識にあって、そこから細部に降りてゆく。
車が楽に出入りできる巾約3m の門を作りたい。すこしは見栄えのする門扉を取り付け開閉をリモコンで自動化する。門扉は夏の樹の葉の深緑。門柱はピュイゼの環境に合わせたレンガ色がいいな。門の開け閉めを自動化するには門柱がぐらついてはダメなので鉄筋入りのコンクリートにしなければならない。レンガを積んだ門柱では片側150kgの重量を支えきれない。ちょうど、それに適した材料を近所のプロ向け建築資材を売る店で見つけた。40cm角の底のない枡の形のブロックを積み、中に鉄筋を入れコンクリートを流し込み、外をレンガ色の素焼の化粧タイルを貼れば外見はレンガを積んだ門柱に仕上がるのだ。
鉄筋とブロックと砂利と砂、セメントを先に買い設計にとりかかった。
基礎のコンクリートまではあらあらの寸法で足りるが門柱の位置、中に入れる鉄筋の位置からは5mm単位の精度が要る。実際垂直に立てるべき鉄筋をすこし傾いたまま固めてしまい後でブロックの縁の内側を少し削らねばならなかった。ほかにも設計の段階で細部を見落としたため、門扉を支える肘金物 (フランス語でゴンgondという )の位置を上下とも 5mmほど修正しなければならなかった。タイルを貼る糊の厚みを忘れていたからである。
ぼくはやはり神様とはかけ離れた存在だ。ただの人でも忘れ物をする、どっちかというとダメな方に近いひとだとそのときも悟った。前回、ジェームズが設計という人間の行為が神の創造に通じると書いていることに触れたが、ここでも神様の完璧とは遥かにかけ離れたヌケサクぶりを実感しながらタガネを振って穴の位置を移動したものだ。
神が宇宙を創り、太陽と地球を作り、ありとあらゆる生物と人間を造った、という神話はそれなりに壮大でこころを宇宙の始原にまで向けてくれるが、ここでまたちょっと、ぼくの悪い癖をだして屁理屈をこねさせてもらう。設計をしてみると解るが、どんなに簡単なものでも、設計者は、あらかじめ完成時のあるべき姿をイメージとして持っている筈である。神様が宇宙と生物を造りはじめる時点で、すでに出来上がりの姿がお心にあったというのがぼくの説。
ところで、完成時のあるべき姿というものは何もない無の状態から生まれうるものだろうか?
すでに在るもの。過去にあったもの。なにがしかの見本、モデルがなければ完成時のイメージは持ち得ないのではないかというのが、ただの人が抱く素朴な疑問です。
神様が、この宇宙をお造りになる前にすでに見本となる宇宙があった。人間を造る前に人間のモデルとなる生物があった・・・。モデルの前に別のモデルが・・・。無限に遡っていった先は?
もちろん創造の過程で、ぼくらただの人間のように、忘れてたことを修正し、変更を加え、改善を重ねてゆくことができる。ただ、できれば神様としては最初から細部に至るまで完璧な完成品の姿を持っていてほしい。
汗をまき散らしながらツルハシとスコップを振るい、やっと深さ70cm、巾30cm、長さ6mの溝が掘れた。
捨てコンを打ち、鉄筋を置き、計算した位置に鉄筋を立てる。
設計は完成図からの逆戻りというのを繰り返すと、縦の鉄筋の位置は、門柱ブロックの厚み、化粧タイルの厚み、門扉の縁と化粧タイルの間に空ける隙、左右の門扉の間に空ける隙、これらをすべて計算に入れて決める。左右の門扉の縁と縁に空ける隙は広すぎてはピタリと閉じないし、狭すぎてはモーターで自動開閉ができない。
基礎のコンクリートを打ち、二三日置いて養生した後、固まった基礎の上にやっと門柱のブロック第一段を置くことができた。一段積んでは生コンを流し込み棒で突き固め一日置いて次の段を積んでゆく。こうして左右のブロックを6段積んだ段階で古い鉄柵を撤去した。
この錆びた鉄柵は頑丈なT字鋼の支柱に留めてあり、支柱はさらに地中深くコンクリートの基礎に埋まっていた。ぼくに工場の現場の経験がなければ、これを見ただけで手に負えないと業者に頼んだだろう。自動車工場のプレスショップの型保全という現場で働いたお陰で、鉄というものが布と同じように柔かくて伸びたり切れたりし、サンダーという道具を使えば楽に削ったり切ったりできるのを見ていた。夜勤の人気のない時間に、こっそり持ち込んだゴルフクラブのヘッドを削ってみたりもした。
電球を換えることもできない哲学者なら、むろん、サンダーを使うことなど思いもよらないだろう。業者に依頼し金を払って済ませてよしとするだろう。それでは物を作る喜びと痛みを感じないまま生を終えることになる。硬い物質の抵抗と、手を通じ腕や肩、腰に跳ね返ってくる力を感じることで、人間は意識の外にある物質の世界の認識を深めることができるのだ。
錆びた扉と支柱はサンダーでカットしリヤカーに積んで近所の廃棄物集積所へ
運んで捨てた。
プロ向けの材料を販売する店が近所にあると書いたが、そこで砂利、砂、セメント、ブロックを買いリヤカーに積んで運ぶ作業を何回か繰り返した。肩と腰が痛くなる作業だった。
この店は個人にも小売してくれるが消費税(TVA)が業者へは5.5%なのに個人は19%と高い。化粧タイル購入にあたってこれが原因で、ハプニングが起こり今も痕を引いている。それについては次回にゆずる。
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