夢その2 : 山の釣堀
投稿者 : 叢林亭 :http://www.sorintei.com
今週は、開店以来、友達の紹介を介さず、弊 Web Site をご覧下さり、ご自分でレンタカーを運転され来て下さったはじめてのお客様のお相手をし、さらに八か月間行方不明で、もう死んだかと思っていた「トラジ」が奇跡のように戻ってきたので、対応に追われ、夢の続きの文と挿絵を描くのが遅れました。
お待たせしました。では、夢の「つづき」です。
「宿を発って、どこかへ歩くあいだも間断なく雪は降り続いていた。これじゃ春の雪解けの時は大変だねと僕は土地の子供に言った。子供は軽蔑の混じった表情で、たいしたことないというふうなことを言った。
仲間と連れ立って山を降り、もう雪のなごりも無く、夏のように、強い陽が射している道ばたで僕らは休憩した。すると、岩だらけの道を降りたところに釣堀があり、人が群がって釣りをしているのだった。
僕は釣堀を見に降りて行った。そこの混みようは人の背中をかきわけてやっと堀がのぞけるくらいで、近所の子供や山へ静養に来た大人たちでいっぱいだった。澄んだ水の中を大小のマスが泳ぐのが見えた。
みんなが釣りをしている様子を、しばらく眺めていると、釣り方に二通りあることがわかった。子どもたちは普通の浮きのついた仕掛けにエサをつけて釣っていた。たいていの大人たちは、エサをつけず、大きな錘と三つ又のハリがいくつかついた仕掛けを水に入れ、ぐいっーと引っぱって泳ぎまわる魚の腹に引っ掛けて釣りあげるのだった。
白い腹に赤や緑の斑点の浮いたみごとな鱒が身を躍らせて釣りあげられるのを見ているうちワクワクと釣りの本能が掻き立てられた。「しばらく、ここで釣りをしていこうじゃないか。」僕は仲間を誘いに岩だらけの道を登っていった。
ところが、一行はすでに発っていて、Kだけが、ぼんやり、人待ち顔をして岩の上に腰をおろしているのだった。僕はKと連れ立って、釣堀へ降りて行った。
釣堀は、たしかに最初見たとおり、野外の石で囲まれた生け簀で、鱒ばかりが泳いでいるマス釣り場だったのだが、三つ又のハリと錘のついた仕掛けを手に取って、針先を指の腹に当て砥ぎ具合を試したりし、いよいよ水に入れようという段になると、釣堀は、もう野外の日の光の下ではなく、デパートの人混みのする売場の中の蛍光灯の下にあるのだった。
それでも僕は胸をときめかせて仕掛けを入れ、適度な深さに沈んだところで竿を思い切りよく引いてみた。錘が水の中でぶるぶると震えて回転するのがわかった。何度かそうやって仕掛けを引きまわしたり、水から上げ、また遠くへ投げいれたりを繰り返すうち、ずしっと岩にでも掛かったかと思うほどの重みで竿がしなった。
やがて仕掛け全体がゆっくりと動き出した。ハリに獲物が掛かったのは間違いなかった。それにしてもすごい重量と抵抗だった。鱒という魚にこんな力があったのかと不思議に思いながら糸を切らぬよう、慎重にリールを巻いていった。
とうとう獲物が水面に顔を出した。それを見たとたん、僕は怖ろしさに顔が引き攣るのを感じた。奇怪な、魚類図鑑でも見たことがないような、蝦とオコゼの交配種みたいな、そのくせ腹は白くぶよぶよした感じで、三つ又針のひとつがそこに刺さり、黒い、どぶ泥のような液体が、裂けた皮膚から染み出しているのだった。(つづく )
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