« 夏の山脈 1 機内で | トップページ | 夏の山脈 3   »

2011年3月 7日 (月)

夏の山脈 2  到着

 午後三時三十分。予定通り着陸した。入国審査にすごい行列ができている。制服を着た黒人の係り官が運良く三番目の窓口を開いた。

 陽一は前に居たオランダ娘を促してその窓口の二番目に並んだ。黄色の関税申告書を見て黒人の係官が何か訊いている。やがてオーケーと言うと紙に赤線を引き、オランダ娘は陽一に何も言わずに行ってしまった。

 持ち込み制限オーバーのところへ印をつけておいたので、係官はアルコールは何本持ってますか?と陽一に訊いた。二本と答える。ほんとうはリュックにもう一本、パリのド・。ゴール空港で買ったボルドーの七十五年のバロン・ロチルドが忍ばせてあるのだ。

 「約なんリットル?」とさらに税官吏が訊くので、約一・五リットルと答えると、よろしいと言って赤のフェルトペンで申告書に縦線を引き、にっこりと笑った。ああ、この国も寛大なのだ。よかった、と陽一は思った。

 荷物はすぐに出て来た。出口の脇に立っていた婦人警官も歓迎の微笑を浮かべて申告書を受け取った。

 出迎えの人混みの中に日本人を探す。長髪だと白木は言っていた。

 「いいか。辻トオルという人が迎えに行くからな。この人に鍵を手渡してくれるよう頼んどいたから。辻さんは……長髪だから、すぐわかるよ」

 ハワイの仕事が延びたから君が来る日までに帰れなくなったと白木から電話があったのは三日前の日曜日だった。フォンテンヌブローのアパートにアリーヌと居る時電話が鳴った。なぜかその時だけ白木から電話があるとは思ってみなかった。あと三日で白木と必ず会えるとばかり思っていた。

 アリーヌが電話を取り、「ヌキテパ」とフランス語で答えてから、陽一に手招きした。白木の声にはどこかイライラし怒ったような響きがあった……。

 出迎えに出た一群の人々の背後にベンチから立ってゆっくりと歩き始めた東洋人がいる。ジーンズを穿いて真っ黒な髪がすこし長い。向って歩いてゆくと男も陽一へ眼を向けた。

 「辻さんですか?」と訊くと向こうはもう笑っている。

 出迎えの礼を言ううちに辻さんは歩き出していた。

 「車がパーキングに停めてありますからね。そこに行きましょう」

 両替を探したがそこには見当たらなかった。

 「明日、街で替えましょう」辻さんが言った。

 「ぼくはエドモントンに住んで十七年になりますよ。白木とはしょっちゅう往き来してる仲ですから。今日は大学で仕事をして、これから家に帰るところです。ぼくの家は空港のすぐ近くですから今夜はうちへ来て泊まってください。白木の家はここからずっと遠いですから。明日また大学へ行きますので、その時送りますよ」

 白木は「鍵を辻さんからもらって家で待っててください」と言っていたので、白木の家でひっそり日記でも書きながら待とうかと考えていたのだが、辻さんの都合もあるだろうし、せっかくそう言ってくれてるのだから、彼の好意に甘えればいいのだろうと思った。

(つづく)

ポチッと応援ありがとうございます↓
連載の励みになります。

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村

|

« 夏の山脈 1 機内で | トップページ | 夏の山脈 3   »

小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1025232/39130750

この記事へのトラックバック一覧です: 夏の山脈 2  到着:

« 夏の山脈 1 機内で | トップページ | 夏の山脈 3   »