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2011年3月 9日 (水)

夏の山脈 4

 体じゅうを黒褐色の長い毛で覆った大きな犬が迎えに出て来た。
 犬は腰ほどまでも背丈があり、首を叩いてやると四足を揃えて陽一の脇に佇み儀仗兵のような挨拶をした。

 ベランダへ乗って白いエナメル塗りのドアから家の中に入った。
 広いサロンがある。大きなソファーが置いてあり、その向い側が一面ガラス張りになって外の景色が見渡せる。陽一はまず景色を見に行った。

 サロンのガラス窓の下が急に落ちこんで傾斜になって下り、下に池があった。水鳥が四・五羽遊んでいる。池の向こうは牧場らしく、なだらかに高くなってゆき、はるか向こうの斜面に馬が二頭、草を食んでいた。

    ☆             ☆            ☆

 この三月、仕事で日本へ帰った。仕事が終わり、パリへ戻る間際に高井に電話した。高井は、今年の夏、仕事でアメリカへ行くからそのついでにカナダへ回って白木に会って来ようと思うがお前も来ないかと言った。
 
 「行きたいな」と陽一は答えた。
 
 白木は八月ごろ日本へ帰ると高井は言った。

 「できたら、その前にカナダで会いたいな」とも陽一は言っておいた。

 青春時代を毎日のように一緒に過ごした悪友が三人、太平洋と大西洋を飛んでロッキー山脈の麓で落ちあう。いいじゃないか。陽一はすでに再会の場面を想像していた。

 その旨の手紙を白木に書いたが返事は無かった。夏になって白木から電話があった。

 「仕事でハワイに三カ月行っとった。帰りに日本へ寄ってきたよ。キミの手紙読んだ。高井と会ってきたが、ヤツものすごう忙しそうにしてたから、この夏、来れるかわからんぞ。おれの見たところ、まずムリやなあいう感じやったな」

 それで高井に電話した。高井は早口で、その件、中止してくれと言った。
 
 そもそも白木のカナダのアドレスを教えてくれたのは高井だった。大学へ入り就職するとそれぞれの生活に忙しく、心の底に友情を保ちながら疎遠になっていった。そのうち陽一はパリへ出てそこに住みついた。

 一度だけ、カナダの白木からハガキを貰った。友人が行くからよろしく頼むと。その友人とは会えなかったが、白木のアドレスが書いてあるそのハガキは大事にしまっておいた。パリでのアルバイト、引っ越し、結婚と、自分の生活を築くのに必死になった数年間にそのハガキのありかを忘れ、住所録も盗まれた。

 「エドモントン」という街の名前だけが記憶に残っていた。

 白木の正確なアドレスを知らせてくれたのは高井だった。高井は事業で忙しい身でありながら筆まめだった。

 三人で再会のアイデアが消えた後も、陽一はカナダでの白木との再会を諦め切れなかった。
 

(つづく)

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