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2011年3月18日 (金)

レクイエム 4

 父方の祖母のお玉婆さんは酒と煙草ばかりくらって遊ぶのが好きな人だった
から、妹の出産にあたって手が足りず、母は兄を残し僕を田舎に預けること
にした。三歳から五歳になるまでの二年間を僕は兵庫県の人里離れた土地で
過ごした。ものごころつくまで僕は母方の祖母の許で育った。母と別れ祖母
とふたりきりで過ごした二年間の記憶は、僕の心の奥にしっかりと植わって
いる。

 ―― 母さん、僕は子供の頃に母さんの許を離れて田舎で暮らしたことをこれ
っぽっちも恨みになんか思ってやしないよ。それどころか、都会の子供たち
が味わえない田園の風物に触れることができて、ちいさい時から自然に関心
を抱けるようになったのもこの時のお陰と感謝してるくらいだ。

 祖母とふたりきりで暮らした田舎は姫路から播但線に乗って日本海に近い
但馬へ行き、そこからまた馬車に揺られてやっと着く八鹿という村だった。
当時もまだ「馬力」と呼ばれていた荷馬車の荷台に後ろ向きに座って土の
田舎道を揺られて行った記憶がある。大柄で肉付きのよかった祖母と過ごし
た村の生活の幾つかの場面を今でもはっきりと覚えている。気立ての優しい
祖母との、思い出の中の毎日の生活は全体としてかなり楽しいもので、悲し
かったとか寂しかったとかの記憶はまったくない。母を想っている自覚もな
く、置かれた状況にただ順応し子供の自然の生命力で日々をそれなりに楽し
く過ごしていたのだろう。それにしても、母を恋しがらない幼児はいない。
いつ頃からか僕の心に根づいたいつもなんとなく寂しい感覚、女性を思慕し
つつ、肉体を強く望むわけでもなく、離れて想う方がいいという、どこか現
実逃避的な愛の習癖はこの時に形づくられたのではないかと思う。

(つづく)

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