« レクイエム 14 | トップページ | レクイエム 16 »

2011年3月29日 (火)

レクイエム 15

 正義のために行動すべきだと考えたのは模範生たろうとしてきた今までと基
本的に同じ線上にあったはずだ。妥協は卑劣。正義は高潔で純白だ。これま
で規範の対象だった先生や警察を敵視し、父親も批判すべきだという経験し
たことのない状況に僕は立たされた。

 その日から毎日のように僕は集会へ顔を出し暑い太陽の日差しのもとをデモ
の隊列に加わって行進をはじめた。
 民青のその闘士は髪を短く刈り、手にハンドマイクを持ち、隊列に向ってシ
ュプレヒコールの音頭を取った。彼の身体は筋肉が引き締まり、顔は連日の
闘いに鍛えられ、鉄か岩を想わせた。しなやかな猛獣のようなプロボクサー
の克己心と江戸町民の軽妙洒脱を併せて感じさせた。つかず離れずついてく
る警察の車に対抗するスリルと反抗者の仲間入りをした解放感を僕はデモの
隊列に加わりながら味わっていた。

 僕たちは三宅坂の国立劇場建設予定地に集まっていた。空は夏の夕暮れ
で群青から次第に薄墨色を増して行く。ふと国会議事堂の方向を見ると上空
が煙が立ち込めたように霞んでいる。その霞がかった空がなにやら赤味を帯びた
光に明るく照り映えているのだった。翌日のニュースで国会構内に極左学生
が突入し機動隊と衝突して東大生の樺美智子さんが死亡したと知らされた。

 後に僕はあの時三宅坂の広い空き地でなすすべもなくたむろしていた数万の
群集が極左冒険主義と批判された学生たちに続いて国会に押し寄せていたら
日本の歴史はどうなっていたろうかと考えることがあった。高杉晋作の絵堂
の決起がなければ明治維新はありえなかった。彼は年上の同志から冒険主義
と非難され馬の行手を遮られたが、それを飛び越えて決起した。祖国に真の
独立と平和と正義の実現を求めて国会突入に命を賭け機動隊に棍棒で腹を突
かれて死んだ美智子さんのピュリタン的な魂に僕は打たれた。

 日本に在るアメリカ軍基地には密かに核配備がされているから核攻撃を受け
る確率が高く、アメリカの植民地支配から独立を勝ち取って社会主義革命を
達成しその後に共産主義社会へ向かおうと主張する人々と、日本は植民地で
はなく日本の独占資本は重要な市場のアメリカを同盟国とし世界で最強国の
核の傘に守られているから中国やソ連や北鮮の核攻撃を受けずに済むと主張
する人々との狭間に僕は立っていた。

 (つづく)

ポチッと応援ありがとうございます↓
連載の励みになります。

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村

|

« レクイエム 14 | トップページ | レクイエム 16 »

小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1025232/39383469

この記事へのトラックバック一覧です: レクイエム 15:

« レクイエム 14 | トップページ | レクイエム 16 »