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2011年3月28日 (月)

レクイエム 14

 この時期は一九六〇年の春から秋にかけてのことで日米安保条約の自動
延長の時期と重なっている。それまで政治に関して新聞すら読んだこともない
僕が周囲のただごとでない緊迫感に反応して国会デモに加わった。鬱病を追
い払うには何か正統な理由を与える行動が必要だった。

 校門を入るとすぐ右手に見える体育館の青い扉の前で上級生が数十人集まっ
て一人の青年を囲み話に聴き入っていた。好奇心から僕はその輪のなかへ入
り話を聴いた。少年の直感で僕が理解したのは日本が歴史的転回点にさしか
かり、真の独立か半植民地かを選択すべき時にあるということだった。祖国
の危機を認識し僕達は立ち上がらなければいけない。中国を敵に回すアメリ
カ占領時代に結んだ軍事条約の延長に反対しなければならないという青年の
主張に僕は同感できた。僕の家の前のホテルのテラスでチューインガムをか
みながら膝に日本女性のパンパンを載せた桃色の肌のアメリカ軍将校に僕は
子供ながら敵意を抱いた。幼稚園の前の明治通りを轟音を立てて通り過ぎて
行くアメリカの戦車を見て、日本はアメリカに占領されていたんだ、今も似
たような状況にあるんだということを肌身で感じた。おタマ婆さんがちゃんころ
とかちょうせんとか侮蔑の言葉を投げつけるにもかかわらず、お隣の中国
と韓国とは仲良くした方がいいと子供心に思っていた。

 戦争で負け、アメリカから経営工学を取り入れる仕事をしている父への反抗
心がそろそろと頭をもたげ始めていた。安保反対の運動は父への反抗を集団
に混じって示すことができ僕にとって恰好の場だった。

 祖国が置かれた状況への危機感に突き動かされ、ためらいを感じながら、正
義感だけを信じて行動に入って行った。僕のその時の情念はつきつめれば明
治維新の若き志士たちが抱いていた攘夷ということになるだろうか。福沢諭
吉の唱えた脱亜入欧はどうも金持ちの説のような気がする。ピンク色の肌の
アメ公より黄色い肌で同じ漢字を使う中国人と親密にすべきだと考えたのだ
から、十四五の少年にも民族的感情ははっきりとあるのだ。

 (つづく)

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