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2011年3月10日 (木)

夏の山脈 5

 オスカー・ワイルドの短編に「セルフィッシュ・ジャイアント」というのがある。高一の英語のリーダーに入っていた。陽一がパリに住みついてからも孤独感に襲われた時、取り出して読んだものだった。

 友達の城に遊びに行っていた巨人が、帰って見ると城の庭に近所の子供たちが入りこんで遊んでいる。巨人は腹を立て、立ち入り禁止の札を立てて、子供たちを追い出してしまう。

 春が来ても、巨人の庭だけは冬のまま、霜に覆われ真っ白で、木の芽も出ず、花も咲かない。孤独地獄を味わった巨人は、キリストの化身である白い子供のお陰で隣人愛の貴さを見出すという話なのだが、陽一はこの短編のなにげない書き出しに、いつも注意を惹かれた。

 「ある日、巨人は帰って来た。彼は、友達のコーンウ
ールの鬼を訪ね、彼の許に七年間滞在した。七年が経って彼は言うべきことを言いつくし、話すことがなくなったので自分の城に帰る決心をした」

 昔の友達に無沙汰の間の出来事、心の鬱屈を語り尽くすのに七年が要ったのだ。七年友達の許に滞在して、初めて言うべきことが言い尽くせた。

 白木を訪ねて来たオレは、コーンウ
ールの鬼を訪ねるセルフィッシュ・ジャイアントだと陽一は思った。巨人が言いたいことを言い尽くしてから帰ったのに対して、陽一は、初めから帰る日を決めて来たところが違う。

 陽一は白木との再会の期間を十日間と決めていた。巨人よりもオレはセルフィッシュかもしれないと陽一は思った。

 (つづく)

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