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2011年3月21日 (月)

レクイエム 7

薩摩芋の缶詰とじゃがいもを皮ごと蒸したのしか口に出来なかった僕の幼年
時代。腹を空かしていた子供は口にできれば何でも良く、好き嫌いを言う余
裕などなかった。

幼年時代は物質的に恵まれなかったが、今よりずっと幸福だったと僕は思う。
新宿に近い都会のど真ん中にふんだんにあった空地や道路は子供たちの絶好
の遊び場で、自動車もまれにしか通らず、野菜畑もあって、夏には蝉、蜻蛉
などが飛んで来た。大都会の真ん中に在った自然の中で幼少時が過ごせた僕
はなんと幸せだろうと思う。

子供は学校から帰ると、鞄を放り出すや示し合わせた空き地に集まる。バケ
ツに張った布の上に、縁を八角や六角に削った鉄のベーゴマを投げ入れ、ぶ
つけ合って遊ぶのだ。紐を離れたベーゴマは厚いキャンバス地の上でブーン
とうなりをあげて回る。布の中央の窪みで先に回っているベーゴマに弧を描
きながら近づき、ぶつかった瞬間チンと弾け合う。接触が浅ければ二個のベ
ーゴマは布の窪みから縁へ傾斜を昇って別れ、軸を傾け回転しながらまた中
心の谷へぶつかりに降りてゆく。時には、三つも四つものベーゴマが布の上
に踊ることがある。弱いものは布から弾き出される。冷たい鉄の金気臭い匂
いが手に染みついて夕餉の席に興奮の余韻を漂わす。

ベーゴマに飽きると子供たちは馬飛びをして遊んだ。馬の組の独りが壁に背
を当てて立つ。その子の股に次の子が頭を突っ込み、立った子の腿を両手で
抱え馬を作る。騎手の組が馬の背に飛び乗るのだ。落馬した子は馬になる。
馬が長く伸びてしまいに六人も七人も繋がると馬の首元まで飛び乗るには大
変な跳躍力がいる。子供はそうした距離を怖れもせず助走で勢いをつけ跳ん
でしまうのだ。五六メートルも跳んできた子は馬の子の背中に身体ごとガバ
ッとしがみつく。子供の跳躍力と肉体の柔軟性には驚くべきものがある。
子供時代の遊び友達はこうして身体ごとぶつけ合った仲なのだ。学校の成績
もへちまもなく誰もがそれぞれの特性を認め、組んだり争ったりするのだ。

 (つづく)

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