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2011年4月26日 (火)

夏の山脈 12

初対面でそこまで甘えて良いものだろうかと思ったが、まあ白木の友達であることだし、同じ芸術家気質で気心が知れてるようだから、向こうがしてくれるということを感謝して受け取れば良いと陽一は思った。

「顔も思い出せん昔の友達が来るいうて、白木もずいぶん気イつかってたよ。どこへ行こかなあ。山へ行こかあ。学校みせにゆこかあいうて」

辻さんがふと洩らした言葉を、陽一は当てこすりかと一瞬ドキリとしたが、十七年もの間、ハガキ一枚出さなかったのだから当てこすりを言われたとしても甘んじて受けるべきだと思いなおした。白木にしたって全く音信のなかった高校時代の友人から、突然旧交を温めよう、急に会いたくなった、と言われて当惑したろう。

「ユーアーオールウエイズウエルカムだよ」

白木は電話で陽一が仕事の都合はどうか、行って邪魔にならないかと訊いたときにそう答えた。

「僕はいまなあ、自分でコンサルタントみたいにしてやってるのよ。それにエドモントンは石油の街でしょ。今は仕事がないのよ。
この秋には日本に帰ろう思って。家も売りに出してるのよ。今はだから、小さな仕事をやってるだけで時間はいくらでも好きなように都合できるから。
ロッキーをキャンプして回るツアー?そんなのもあるんか?外国はいろんなツアーがあるね。山ならオレが連れてってやるよ。ちょうど帰る前にいちど山へ行きたい思ってたから。釣り?釣りがしたいんか?エドモントンの街を流れている河?河はあるけど、あんなとこダメだよ。竿は一本あるけど、まあ持ってきた方がええな。寝袋?オレもふたつ持ってるるけど、ひとつは小さいから友達からひとつ借りるようにするよ。寝袋はカサばるからな」

いよいよ行くと決まった時、白木は電話の向こうで陽一の幼児的な希望まで聴きテキパキと処理してくれた。そして、仕事が陽一が心配した通り延びるとわかった時も、年上の友人にこうして世話を頼んでくれたのである。白木の友情は少しも変わっていなかった。

陽一が白木に会いに行こうと決めた理由は、むしろ自分が十七年間、いやもっと前から彼の為に何もしてこなかったという悔恨の思いにあるに違いなかった。会える時に会っておきたい。それは大学時代に一番親しくしていた友人が突然、心筋梗塞で死んでから陽一が自分に言い聞かせて来たことだった。オレの親友は、死んだ畑と白木しかいない。畑は死んでしまったし、白木は何を犠牲にしても死ぬ前に一度は会っておきたい。いま、友情を回復しなければ、永久にオレは友情というものを失ってしまうだろう。

 (つづく)

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