« 夏の山脈 12 | トップページ | 夏の山脈 14 »

2011年4月28日 (木)

夏の山脈 13

思春期から青年時代、一番価値を置いていた友情。無償の純粋な男同士の友情をあの時代は信じ、その情念のためになにもかも抛り出して一緒の時間を過ごした。
俺の白木への友情。それは俺よりずっと男らしい白木に対する俺の側からの一方的な片思いだったかもしれない。

十七年前、白木が羽田からロスアンジェルスへ飛び立つ時、陽一は空港へ見送りに行った。あの時、搭乗ロビーには陽一が顔を知った男たちが四五人と、顔も知らない女たちが三・四人見送りに来ていた。全部和雄の友達だった。陽一の知らない世界を和雄は彼女らと共有してきたのだった。俺がカズの中で占める位置が僅かなものに過ぎないとその時知って陽一は寂しい思いに駆られた。それはそれで仕方のないことだ。陽一の方からカズの中に占める範囲を狭めるようにしてきたのだったから。

あの頃、陽一は女々しいことしか考えていなかった。フランス語を始めてはいたけれど、和雄のように外国へ出ることを本気で考えてはいなかった。やがて大学紛争に巻き込まれ、教職に就こうという意志を放棄して、デザイン材料をアメリカとヨーロッパから輸入する小さな会社の貿易部に就職し、金を貯めてフランスへ来た。

組合作りをやり、倫理上は、組合が実力を蓄えるまで残るべきだったのを、フランスへ行きたい一心で、仲間を裏切る様にして飛び出してきた。ヨーロッパを回り、カナダ、アメリカを三カ月で回って帰る予定だったが、結局フランスへ居着いてしまった。

フランス女と結婚し、仕事をいろいろ移った末に、ある日本の商社のパリ支店に現地採用してもらい、八年間勤め、ようやくアパートも買った。

青春は終わって成人したのだよ。われわれは、もう中年になってしまった。その間の互いに知らない人生。二十代の半ばから四十を過ぎるまでのこの十七年間の、カナダとフランスでの悪戦苦闘の人生を互いに語り明かしたい、という思いが陽一にこの旅を決意させた理由だった。その思いは今でも和雄は分かち合ってくれる筈だと陽一は信じている。和雄は俺を、世間の荒波をくぐり、三十代の大人になった後に知り合った友人とは、違う仕方で受け入れてくれる筈だ。昔の和雄がいつもそうだったように。

(つづく)

ポチッと応援ありがとうございます↓
連載の励みになります。

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村

|

« 夏の山脈 12 | トップページ | 夏の山脈 14 »

小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1025232/39782162

この記事へのトラックバック一覧です: 夏の山脈 13:

« 夏の山脈 12 | トップページ | 夏の山脈 14 »