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2011年4月 8日 (金)

レクイエム 25

聖母マリヤと聖ジュヌヴィエーヴに守られたパリは女性が親切で僕にいつま
でも居るよう薦めてくれた。日本に観光ツアーで来て僕がガイドをしたサッ
クス家に一ヶ月置いてもらった。サックス家は音楽一家だった。ストラスブ
ールから休暇で帰ったベルトランは僕の前でフルートを吹いてくれた。日本
文学を研究していたナデインヌというユダヤ娘をサックス夫人が紹介してく
れ、僕はたちまち彼女のエレガンスの虜になった。夏の暑い日に、身も心も
焼き尽くす恋にのたうちながら屋根裏部屋の窓からパリ解放記念に教会の鐘
が鳴り響くのを聴いた。ナデインヌは男友達をたくさん持っており男を操る
術を心得ていた。彼女はある日エレベーターの中で、厳粛な恋心を抱いてい
る僕を、汚らわしい欲望を抱いた動物のように扱ったので僕の恋は急速に醒
めていった。

カトリーヌは小さくて可愛らしい娘だった。長いあいだ彼女は僕の心にアイ
ドルとしてすみついていた。僕をフランスへ留まらせたいちばんの動機は彼
女の傍に居たいという思いだった。だが彼女と燃え立つような時間を過ごせ
たのはほんの数週間だけのことだった。ナデインヌもカトリーヌも遠くにい
る時、欲望は昂まるのに、近づくと僕の衝動は萎えるのだった。カトリーヌ
はいつも僕を待たせるようになり、日常的話題に飽き、彼女の中国や日本の
文化への無知と偏見に興ざめした僕の心は次第に彼女から遠のいていった。
ジャンヌだけが幼い時の貧困の思い出や欲望の解放といった六十年代の社会
思想を分かち合え、想像力と現実との乖離を味わうことなく付き合うことが
できた。今もジャンヌと居るのは僕の良い悪いも呑み込んでくれる農民的な
ところがいいためかもしれぬ。

 (つづく)

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コメント

カトリーヌさん

さぞや可愛いのでしょうね


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投稿: ponsun | 2011年4月 8日 (金) 08時47分

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