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2011年4月 3日 (日)

レクイエム 20

僕の体質には父さんから貰ったものと母さんから貰ったものとがある。母さ
んにあたったのは母さんが女だからだった。親父は出張ばかりして顔を合わ
せるのは二ヶ月に一回ほどだったから鬱憤を母さんに向けるしかなかった。
美しい娘を恋するほど僕の欠陥が目につく。ガニ股。団子鼻。乱杭歯。こん
な僕に産んでくれた責任は母さんにあると僕の弱点をなんでも母さんのせい
にした。コレステロール過剰。過敏症。胃弱。肌あれ。男性ホルモンが少な
いなど、たしかに親父よりも母さんからよけい受け継いだみたいだね。母さ
んのお腹に十ヶ月も居て、その間に母さんの胎盤が環境ホルモンだの有害物
質だのが僕に届かないように保護してくれていた。でも、中にはその防護網
をかいくぐって僕の身体に入りこんだ有害物質があるかも知れないのだから
僕の生理的な条件を決定づけたのはやはり母さんだ。母さんは僕が親父と子
供のころ交わした黙契を履行するよう僕を監視している親父の代理人のよう
だった。高校の授業は母さんの手には負えず、母さんは僕の悩みを理解でき
てもどうしようもなかったよね。

僕の思春期は、未来の不安に毎日が揺り動かされていた。思春期の想像力は
核爆発が明日にもあるように突然世界が太陽の数倍も明るい光に包まれ灼熱
と爆風が一瞬のうちに地上のすべての生きとし活けるものを殺戮し建造物を
破壊してしまう光景を毎日のように想像していた。僕が人類最後の日の光景
を想像するのはちょうど麻薬中毒者が生きるために麻薬を必要とするような
ものだった。

受験制度を呪い、幾何の定義や教師の態度や安保体制や核爆弾を生んだ人類
の科学技術やに懐疑を抱くと、そうした懐疑の片鱗も持たず、自信ありげで
傍若無人に振る舞うように見える級友に僕は嫉妬と怒りを抱いた。一度、僕
が密かに敬愛していた女生徒が四五人のラグビー部と野球部の男子生徒たち
に、嬲り者にされている場面に出くわした。僕はとめどなく溢れてくる性欲
のはけ口をその胸の膨らみの目立つ女生徒に向けていた男たちの前に立ちは
だかりスピッツが吠えるみたいにキャンキャン喚いた。男たちはなぜ急に噛
みつかれたかがわからず、ある種の精神異常者に出会ったような眼付きで僕
を見、気味悪さを感じたらしく黙ってしまった。僕が庇った積もりでいた女
生徒も別にからかわれてさほど痛みは感じていなかったのか何やら白けた顔
で行ってしまった。孤立感に襲われていた僕の精神は被害妄想的になり、男
と女が成熟へ近づくための遊戯をしているのを一方的に女がいじめられてい
ると思い込み、蛮勇を振るって男たちに噛みついたのだった。

 (つづく)

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