« レクイエム 25 | トップページ | レクイエム 27 »

2011年4月 9日 (土)

レクイエム 26

左半身が不随になった母から初めて父の秘密を明かされた。父は幼い時に親
を無くし、お玉婆さんに養子に貰われたのだという。お玉婆さんは父の実の
母親ではなかったのだ。父の父は満鉄の駅長で事故の責任を感じて自殺し
た。母もそれがもとで精神に障害をきたした。お玉婆さんが父を養子に取っ
たのだった。父は幼い時から朝暗いうちに起きて七輪に火をおこし養母の朝
食を用意したという。父は普通の子が味わない苦労を乗り超えてきたのだ。
そういう身の上を自分から子供に話す気にはならなかったのだろう。母も長
いあいだそういう父の話を子供にしなかった。

父母の世代は国民国家の時代で戦争を理由に子供を沢山作ったが、僕は思春
期から、戦争があるうちは子供を作るまいと考えていた。世界には過剰に人
間が居り子供は増え続けている。米ソ二極体制の只中に思春期を過ごした僕
は、母から受け継いだ過敏症と想像力のおかげで、核戦争の可能性を誇大に
考え、毎日のように核爆発を空想し恐怖に戦いていた。子供に核の恐怖を味
わせるくらいなら作らないほうがましだと考えていた。二十四年前、同棲を
始めたジャンヌも過敏症で子供には同じ考えを持っていた。ジャンヌは長い
間、僕の愛し方が足りないと不満を言い続けたが、長年暮らすうちに互いが
他に伴侶を見つける元気もなくなり、現状を受け容れるようになった。

 (つづく)

ポチッと応援ありがとうございます↓
連載の励みになります。

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村

|

« レクイエム 25 | トップページ | レクイエム 27 »

小説」カテゴリの記事

コメント

身の上話をされないお母様のお気持ち

心打たれますね


ありがとうございます

応援ポチ!

投稿: ponsun | 2011年4月 9日 (土) 05時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1025232/39478109

この記事へのトラックバック一覧です: レクイエム 26:

« レクイエム 25 | トップページ | レクイエム 27 »