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2011年4月 7日 (木)

レクイエム 24

紛争のさなかに僕はまたも色白の太りぎみの女学生に惹かれた。祖母の太股
は、僕に白い豊かな肉への偏愛を植え込んだようだった。活動家に混って集
会の準備をしていたある夜、疲労困憊した僕はこのまま死ぬのではないかと
不安に襲われた。死とエロテイスムとが強烈な深い関係にあることをその
夜、僕は思い知らされ、その白い肉付き豊かな女と、死ぬ前にせめて一度だ
け合体したいと切に願った。救いを求める積もりでその女に逢引を申し込ん
だが、あなたには興味ないのねとそっけない返事だった。男女間にはイデオ
ロギーで片付かない、ふたりの性格や相性の問題があると僕は思い知らされ
た。女の剥き出しになった背の肉に黒い毛が密生しているのを見たとき、裏
切られた想像力が戦きを発して情動はしぼんだ。それ以来、僕は活動から遠
ざかり、外国へ出ようと本気で考えた。

放浪に憧れ、旅を住み処とする芭蕉の生きざまに習いたかった。次男の僕は
家を継ぐことも出来ず、一生働いて家が持てるかどうかという日本に絶望し
た。日本を出る決意をした時に僕はこれが母との別れになるかも知れないと
いう覚悟でいた。横浜を発つ時、母は桟橋まで見送りに来てくれた。三月の
暖かい春の陽が降り注いでいた。ヨーロッパへこのコースを取って行くこと
を薦めてくれた畑が母と兄夫婦と並んで船にいる僕を見ていた。飄軽な畑は
ジェスチュアで僕が着ていたコートを脱げと合図を送った。出発まぎわに母
が買ってくれた青いデニム地で裏にキルテイングの入った防寒コートだっ
た。シベリア経由、スカンジナビアを通って行く僕のために母がわざわざ都
心まで随いて来て買ってくれたコートだった。僕はコートを脱ぎ、鳴り始め
ていた蛍の光と汽笛とドラにせかされるようにコートのポケットに入れてあ
ったテープを取り出し、母に向かって思い切り投げた。

 (つづく)

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