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2011年5月 3日 (火)

夏の山脈 14

辻さんが作った野菜と豆腐と肉のバタ焼きはとても美味だった。時差ボケで疲れている陽一の胃袋は、残念なことに、ほんの少ししかそれを受けつけなかった。生卵を入れた黒の器は辻さんの作に違いないので、陽一はそれを手に取り、ためつすがめつして眺めた。

夕食後の北国の夏の明るい夜を、辻さんは庭で焚火をしてもてなしてくれた。
「タキビをするとな、白木が昔の事を思い出すらしくて、よく山の事を話すよ」
「ああ。彼は山岳部にいましたからね」
犬とジミーが傍へ寄って来た。遠くで獣が吠える声がした。
「コヨーテですよ」辻さんが教えてくれた。

ジャメイが出て来た。「ジュ・ヴォワ」と言って自分の眼を差した指を回して森へ向けた。
「ジャメイはフランス語を習ってるんです。このおじさんはね、パリに住んでんだよ。なにかフランス語で話してごらんよ」
辻さんはジャメイをけし掛ける様に言った。陽一はフランス語で二言三言喋ったが、眠気と疲れとビールの酔いで口が明瞭に回らなかった。

ジミーが空気銃を持ってきて、地面にシャベルを立て、壊れた柄の先に空缶を被せて遠くから狙って撃った。チンという低い短い音がした。「あたった」ジミーが言うと陽一に撃ってごらんと言うように空気銃を差し出した。

どこでもいいですよ。そこのソファーの上でも、というのに辻さんはジミーの寝室を空けさせ、そこに陽一を寝かせる用意をしてくれた。窓に赤い色紙を切り抜いて作った鳩が掛けてあった。電気を消すと、天井が一面の星空に変わった。天井に蛍光塗料で星を散りばめた壁紙が貼ってあるのだろう。北米はやはり洒落たことをするわいと楽しい気分で陽一は眠りについた。時差の為に夜中に二度ほど目が覚めた。

 (つづく)

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