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2011年6月16日 (木)

夏の山脈 19

広い道路、大型車、トレーラー、キャブ。交差点の信号は道路の上に架かったアーチ型のパイプの中央に設置されて見やすい。フランスのように苛立たしく車線を変えたり、際どい追い越しや割り込みをする車はなくみんな大人しく落ち着いて運転している。

街に入ってから比較的閑静な住宅街の一角で辻さんは車を停めた。そこは銀行だった。銀行にとってはお金を借りてる方がお客さんやからと辻さんは笑って言った。銀行のすぐ近くが大学だった。パーキングの入り口のガードマンの黒人に辻さんは運転席の身体を窓に寄せ、「ちょっと運び込むものがあるんだ」と言うと、黒人はうなづいた。

レンガ造りの建物の地階が辻さんのアトリエだった。この建物はアルバータ大学で一番古い建物ですよ、と言いながら辻さんは先に立って階段を降りた。地下室に降りるとスチールの棚に粘土のままの壺や皿が並べて乾してあった。右側のアトリエらしいがっしりしたテーブルの並んでいる部屋で中年の婦人がエプロン姿で手を汚しながら壺を作っていた。

「お早う。万事うまくいってますか?」と辻さんが声を掛けた。中年婦人はにっこりと笑顔を返した。釉薬のカメの間を通り抜けて突きあたりまで行き、これが窯、いま僕の作品をしこみ中なんです、と言って辻さんは半分扉が開いた窯を見せてくれた。内部には肌色の所々に釉薬をはいた跡のある壺や皿が三分の一ほどのスペースを占めて棚に並べられていた。ちょっと写真を撮らせて下さい、と言って陽一は窯を背景にジーパン姿の辻さんの写真を撮った。

辻さんのアトリエを出て再び車に乗り、サスケッチワンの河床にある公園を見た後、もういちど街へ戻って日本レストランへ入った。民芸調の木を主に使った落ち付いたインテリアのレストランだった。白木が設計したのだと辻さんが言った。細長い土間というか通路に沿って右側が畳敷の和風個室になって障子で仕切ってある。陽一は辻さんの勧めに従い左側の寿司のカウンターに腰を降ろした。

辻さんは馴染みらしく、カウンターの向うに立って寿司を握っている背の高い板前さんと親しく口をききはじめた。寿司の盛り合わせを辻さんが頼み二人でつついた。北海銀行のK さんが帰るんだってね。送別会、明日の晩、あんたんとこやね。……あ、明日の晩、彼も呼んでやって。辻さんは板前さんに陽一を呼ぶよう話を決めてしまった。

レストランを出て車に乗り、二分ほど走った交差点で辻さんは車を停め、「じゃあ僕はちょっと午後、大学でどうしてもやらなきゃならない事があるから……。この道をまっすぐ左へ行くとダウンタウンやから。歩いて五分。白木んとこの住所、持ってますね。番号ひとつまちがえるととんでもない方へ連れて行かれるから」

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