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2011年7月 5日 (火)

夏の山脈 21

思春期を迎え陽一の言葉が多少複雑になった。初恋という言葉があり、園子という瞳の黒い娘を恋していた。恋をするのはなぜだろう?なぜあの娘だけに恋をするのか?

倉田百三によれば本能としてより優れた子孫を残したいが故により優れた男、より美しい女に恋をするのだと。したがって女は優れた男性を選ぶ義務、劣った男を拒む権利があると、なんだかナチスの優性遺伝理論を肯定したようなことを書いていた。

プラトンは本来一つであった人間が二つに切り離され元に戻りたいので恋をするのだと。旧約聖書では、神は地上で最初の男をホコリに生命の息吹を吹きかけて造り、最初の女をアダムのアバラ骨を切り離して造った。プラトンの説明は同性愛の説明に良く使われ、旧約聖書は、男権社会の肯定、男の付属物として女はあるという主張の正当化に使われている。

陽一が和雄に惹かれた理由の一つに和雄の容貌があった。和雄は肌の色が象牙色で地肌が芯から白かった。彫刻的な端正な顔立ちに東洋的な丸みを帯びた興福寺の仏像が持っているような形の良い鼻をしていた。陽一はそうした和雄の西洋と東洋の混合した貌の美しさに惹かれていたのだった。

あの頃、青春時代には何という胸のときめきと高まりがあったろう。崇高なものを崇める気持ち、気高いものを追いかけ自分の身を高めたい。真実に身を挺し、真理に身を捧げたい。そういった欲求が絶えず胸のうちに沸くように生れ、衝動となって高まっていった。その衝動に突き動かされるようにしては、街をほっつき歩き。友達の下宿を訪ねた。誰も居ない美術室のミロのヴィナスやミケランジェロのダヴィデの石膏像をどんなに讃嘆の眼で眺めたことか。うつくしいものへの憧憬が胸をしめつけ、悲しいまでにせつない思いに胸を焼いたことか。


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