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2011年8月22日 (月)

夏の山脈 24

白木は麗子さんの後を追い人通りの少ない街角で声を掛け、僕は君の事好きなんですけど恋人として付き合ってくれませんかと言った。麗子さんは驚いた様子だったが美しい笑顔を向けお友達としてならお付き合いしても良いけどいきなり恋人としてお付き合いするなんてお約束できませんわと答えた。それからも白木は放課後や週末ごとに麗子さんに交際を求め関係を深めようとした様子だった。

ある日、陽一と和雄がバスケの部室で二人きりになると、白木が「麗子さんとの事ダメになりそうや」と洩らした。白木は麗子さんの家に遊びに行くようにまでなっていたが、ある日、麗子さんの父親が出て来て、白木の身の上について色々訊き、将来どういった職業を目指しているのか? そして、ついに「国籍は韓国なんですか?」と突っこんできた。白木は恋人の麗子さんに隠し事があってはならないと思い彼女には正直に話していた。
「日本では韓国の人は一流企業に入って出世が出来ませんからねえ。芸能界かスポーツか水商売か、そういった世界で成功する人も居るが、生活に保障がないよね、あの世界は。麗子には向かないと思うんですよ。画家か建築家かデザイナーですって? 苦労するだろうね。よっぽど才能に恵まれてれば別だが、世間に認められるまでは大変な苦労ですよ。お金のある人は別ですよ。御存知と思うが麗子はいちど病気したことのある弱い身体をしています。芸術家の生活を支えてゆけるような女じゃありません。私や家内は、堅実な銀行員とか国家公務員とかを志望する男性を望んでるんです。この気持ちは麗子も充分わかってくれている筈ですよ」

表面の言葉つきは丁寧だったが父親は言外に社交的なつきあいなら結構だが、将来の結婚など論外だし、娘の将来に疵がつくような関係に発展してもらっては困るとクギを刺したんだと白木は言った。白木はいつも男女の愛とは全的なものだし恋する相手とは肉の関係にまで行くべきだと主張していた。

陽一には恋をしている白木の気持ちが痛いほどに解ったがどうしようもない事なのだ。白木はとうとう「お友達」としてだけの付き合いに我慢できず、「好きやゆうて抱こうとした。ほしたら手エで突きのけられて、こんなことするんやったら今後お付き合いできません。もう後を追っかけててくるのもやめてください、言うんや。ほして、私には許婚者がいるんです、いいよるねんや」という結果を招いてしまったのだった。

麗子さんの側に白木に対する感情と欲望が生まれない限り白木の望むように全的に愛し合う関係にはなり得なかった。
国籍が違うということが原因にあったかもしれない。だが白木があんなにも性急に麗子さんを抱こうとしなければ、すくなくともお友達としては付き合い続けることが出来た。白木の激しい感情は、そうした大人の、胸に恋情を秘めながら、互いの社会的立場を傷つけぬ程度に交際を続ける男女の社交性を欺瞞と見るのだった。欺瞞を続けるくらいならひと思いにぶつかって砕けたい。全か無かの激しい衝動に白木は突き動かされたに違いなかった。

(つづく)

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